従業員(=被用者)が勤務中に交通事故を起こした場合,会社(=使用者)は,損害賠償の責任を負わないといけない場合があります(民法715条)。
民法715条(使用者責任)
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ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
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使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
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前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
1項の規定は,使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや,自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させているとして,損害の公平な分担という見地から,その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものです。
3項で,使用者は第三者に賠償した場合,被用者に対して求償することができるとされていますが,被用者が第三者に賠償した場合,使用者に対して求償できるのか,判断が分かれていました。
令和2年2月28日,最高裁判所が,
被用者から被用者に対して,損害の公平な分担という見地から相当と認められる限度で求償できると判断しました。
そもそも,3項で,使用者から被用者に対し全額求償できるのではなく,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分担という見地から信義則上相当と認めあれる限度において,被用者に求償できるとされていました(最高裁昭和51年7月8日判決の事例では,損害額の4分の1を限度と判示)。
使用者が第三者に賠償した場合と被用者が第三者に賠償した場合と,損害の負担について異なる結果となるのは相当ではないという理由です。
実際に,どの限度で求償が認められるかについては,具体的事例に基づき判断されることになります。